セルビアに住み始めて1年と9か月になりました。
最初は観光客+αくらいの位置づけで住んでいた自分たちも、生活に慣れ、だんだん言葉がわかってくるようになり、現地の知り合い・友人が増えてくるにつれ、最初は見えなかったこの国の難しい問題、暗い面が見えてきます。
私が現地の人たちを見ていて感じる一番深刻な問題は、失業率の高さと収入の低さ。
セルビアの平均収入は250ユーロ程度
身近な人、友人や知り合い、ご近所さんの懐事情を聞くと、この国で仕事を見つけて普通の生活を営むための収入を得るのはそう簡単ではないと感じます。
平均収入が250ユーロ程度(日本円で3万円くらい)というのがその厳しさを物語っていると言えるでしょう。
しかも、週6日、一日8~10時間働いて、たったこれだけの給料なんていうことがざらにあります。
首都ベオグラードにある、名の通ったホテルのベッドメイクの仕事が時給なんと1.2ユーロ…(つまり150円くらい!!)。
プログラマーなどの比較的給料の良い仕事なら、月給700ユーロ~1000ユーロなので、この国の生活費を考えればまぁまぁと言ったところでしょうか。(この国で月1000ユーロ以上稼いでいる人は「高給取り」です)
じゃあ平均収入の250ユーロで首都ベオグラードで暮らしていけるのか、というと、ほぼ不可能です。
共働きで500ユーロでギリギリといったところ。
持ち家があればいいですが、賃貸で住んでいるような若い夫婦などはもう少し必要になります。
失業率は実質30%くらい
仕事を探すのも楽ではありません。経営者としてビジネスを営む立場も、高い税金の支払い、雇用者の福利厚生などの経費負担は楽ではなく、できるだけ経費・人件費を抑えるため、雇う人数を少なくして何とか回しています。
だから、雇用者の一人当たりの負担が大きくなり、週6日(酷いと週7)で働かされることになってしまうし、仕事に就けない人も増えてしまう。
最初は心のどこかで「ちゃんと働く気がないから見つからないんじゃないのか」と勘ぐっていた節があるのですが、働きたくても働く場所が見つからない子たちがいることに気づき始めました。
カザフスタンにいたころに、オンライン上で見つけた統計情報では失業率が20%と書いてありましたが、ここに来てからは「30~40%くらいじゃないか」という感じがしますし、実際そういう話をよく聞きます。
カザフスタンも経済事情は楽ではなく、失業率は同様に高いですが、そんな環境に慣れた夫も「この国の労働事情がこんなにひどいとは思ってもみなかった」と言うようになっています。
仕事があっても大変、仕事がなくても大変な国なんだなと。
しかし、意外に優雅な生活…「えっ?」
とはいえ、街中を歩いて、人々の様子を見ているだけなら、決してそんな苦しい生活をしているようには見えません。
それがこの国の不思議なところ。
ベオグラード中心にあるレストランやカフェ、バーには(夏場は特に)いつも人がたくさん入っているし、街中を歩く人たちはお洒落な人たちもかなり多い。
週末にショッピングセンターに行けば、ヨーロッパの他の国と同じように、ZARAやH&Mなどのファストファッションブランドで買い物する人があふれています。
車も時々懐かしの「ユーゴ」が走っていることもありますが、プジョーやルノー、BMV、Fiatなどの新しいモデルもよく見かけます。
アップル製品が好きな人も多いし、実際に若い子の中でもiPhoneユーザは結構多い。
「優雅な生活」というほどではないかもしれませんが、一見、日本や他のヨーロッパ諸国の普通の生活とあまり変わらないのでは…と思うような生活レベル。
なのに「この国の平均所得がたったの250ユーロ(3万円くらい)」と聞いたら、
「ん…????」ってならないでしょうか。
でもそれがこのセルビアの経済事情。
セルビアの生活事情を皮肉った笑い話があるのですが、まさにこの通りのことが起きている感じです。
まずはそのネタをご紹介。
セルビア人とアメリカ人の懐事情についての会話
アメリカ人があるセルビア人と家計について話しています。
セルビア人はアメリカ人に聞きました。「毎月の給料はどれくらいなんだい?」
「3000ドルだよ」アメリカ人
セルビア人「で月々の支出は?」
「1500ドルくらいかな」アメリカ人
セルビア人「え、じゃあ残りのお金はどうしているんだい?」
「うちの国ではそういう質問はしちゃいけないんだよ。
で、君の給料はいくらなんだい?」アメリカ人
セルビア人「200ユーロだよ」
「で、支出は?」アメリカ人
セルビア人「1000ユーロくらいかな」
「え…???じゃあどうやって暮らしてるの??(汗)」アメリカ人
セルビア人「うちの国ではそういう質問はしちゃいけないんだよ。」
「…」アメリカ人
200ユーロの稼ぎだけで、1000ユーロ分の生活をしているという、なんとも不思議だけど、あながち嘘ではないような笑い話。
「800ユーロ分」のお金はいったいどこから捻出されているか。。
実は、ここには一つのからくりがあります。
生活費800ユーロ上乗せできるそのカラクリとは
それは、ヨーロッパのより経済的に安定した国々(ノルウェー、ドイツ、スイスなど)やオーストラリア、アメリカなどに移住した親戚がお金の援助をしているというもの。
実際、2000年までの旧ユーゴスラビア内戦とその後の経済危機をきっかけに、ヨーロッパやオーストラリアには相当なセルビア人が移住しているようです。
どれくらい移住しているのか、気になって調べてみたところ、以下のような統計を見つけました。
ドイツ: 約22万1千人
オーストラリア: 約18万7千人
スイス: 約7万8千人
フランス: 約4万8千人
イタリア: 約4万4千人その他、ノルウェー、スウェーデン、アメリカ合衆国などにも多数移住。
ざっと計算するだけでも約60万人のセルビア人が外国に住んでいるということになります。
セルビア本国に住んでいるのが800万人ですから、結構な割合ですよね。
さらに、上記はセルビアの国籍を持っている人たちですが、帰化た人達もいることを考えるとさらに多い可能性が高いです。
彼らは親族の期待を一手に担い(というのは大げさなようで本当っぽいですが)、セルビアに残されたかわいそうな親族たちに暮らしの助けを差し伸べている。ま、先ほどの笑い話にあるように月々800ユーロも仕送りしてくれる親族はそう多くはないでしょうが…。
アップル製品は、そういう親族や知り合いからのおさがりがセルビアに流れ込んでくるから、アップルユーザも多い。
もちろん、本人が実際にヨーロッパ各国に数か月、出稼ぎに行き、たっぷり稼いで帰ってくるということもあります。
この話は、結構いろんな人から耳にする話なので、実際そうなんだろうなと。
まぁ何だか納得。
おまけのカラクリその2
一見高くつきそうで、実は安くすませられる方法があるというのも「安い給料でいい生活」ができるカラクリではあります。
会話好きで外に座って時間を過ごすのが大好きなセルビア人は、カフェやレストランのテラス席で、実はそんなに注文せず、ビール一杯やコーヒー一杯だけで、何時間も延々とこのいい季節を楽しむことができます。(だからいつも人がいっぱいに見える)
あと、一皿のボリュームが惜しみなく多いことが多く、2人で一皿分を頼んで分けるというのも全然OK。それを恥ずかしく思う必要もないし、もしたくさん頼みすぎて余ってしまったらパックに入れて持ち帰りさせてくれる。ということもあって、レストランで食べるのもそんなに敷居が高い訳ではなかったりします。
洋服も街中にヨーロッパ各地から比較的良質な古着を仕入れてくる古着屋さんがたくさんあり、そういうところで上手に買い物をすれば全然みすぼらしく見えない。(私も掘り出し物探しに、よく古着屋巡りをします。笑)
夏のバカンスには、一人当たり100ユーロ未満でギリシャに10日間滞在できるツアーがあったりします。
ツアーといっても添乗員がつくとかではなく、行き帰りのバス代と宿泊費で100ユーロですが、ハッキリ言ってこれは激安もいいところです。
こうしてあまり裕福と言えない人たちも、夏にはたっぷりの休暇をギリシャの青く輝く海で楽しむことができているというわけです。
平均収入がたったの250ユーロでありながら、そうとはとても思えないようないい生活をしているセルビア人。
タイトルに書いた「優雅な生活」とは少し違うかもしれませんが、彼らの生活スタイルを見ていると「生活大変なはずなのに、何だかんだ良い生活をしているのでは」と心の中で思うことはあります。
何だか不思議ですが、その不思議な感じが成り立っているのがこのセルビアという国。
まとまりがないですが、以上がセルビアに2年弱住んで見えてきたこの国の生活事情でした。まだまだこれから見えてくる裏事情がありそうです。