なぜかセルビアに移住するロシア人たち。ロシア人から見たセルビアの良いところとダメなところ

  • 投稿カテゴリー:セルビアの生活
  • 投稿の最終変更日:2023年1月2日
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セルビアには、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、マケドニアなどを始めとするバルカン地方の国の人たちや、いわゆるジプシーのロマ人、ハンガリー人(マジャール人)などがたくさん住んでいますが、それに加えて最近増えているのが、ロシアやウクライナなどから移住する人たちです。既にロシア語圏からの人が約4000人はセルビアに住んでいると言われており、この数は増え続けているとのこと。

そもそも、ロシア人は他の国に移住することに抵抗を感じない人たちで、より経済状況の良いドイツやその他のヨーロッパ諸国へ、あるいはバケーション感覚でトルコやタイの海沿いの地域に移住する人たちは決して少なくなくありません。しかし、セルビアは海があるわけでもなく、ドイツのように経済状態がいい訳でもない。仕事がなくて困ったセルビア人がより良い生活を求めて国外へ移住していく中、あるロシア人たちがセルビアを好んで選ぶのはある意味、不思議でもあります。

今回は、セルビア在住のロシア人たちから見聞きしたことや私の個人的な体験をもとに、なぜロシア人はセルビアに移住するのか、彼らがセルビアについて感じている良いところとダメなところをまとめてみました。

 

ロシア人から見たセルビアの良いところ

治安がいい。子供たちが自分たちで学校に行ける。

モスクワなどの大都市では特に、子供たちの安全を考えて学校や習い事に親が送り迎えするのが普通のようです。また、夜9時以降に子供たちが外をうろつくなどというのは危なくて許せるものではないとのこと。あるロシア人の女性は、子供たちを学校に送り出し、迎え、習い事に連れていき、迎え…というのの繰り返しで5年間が虚しく過ぎたといっていました。ロシアは周知のとおりアル中の率も高く、夜は特に道端で危険な目に遭わないよう、大人でもなるべく独り歩きをしないなど気をつかって生活しているのが普通です。

セルビアはどうかというと、首都のベオグラードでも暗くなってから親子連れも若者たちも普通に街中を歩いているし、学校にも習い事も自分たちで行き帰りしている。この治安の良さはロシアにはないと評価しているようです。

日本人の私としても、ベオグラードは夜の一人歩きもさほど不安にならない、東京と似たような安心感のある街ではないかと思います。もちろん、中年のセルビア人なら「今は物騒な世の中になった」という人が大半でしょうが、それは東京でも他の都市でも言われていることですので、「相対的に見て」治安は良いと言えると思います。

夕暮れにベオグラード中心の要塞(カレメグダン)で一時を過ごす若者たち

 

 

アル中が少ない

アルコール中毒の親族やご近所さん、仕事仲間などに散々な思いをさせられてきたロシア人にとって、セルビアのアル中の少なさはまさに朗報。セルビアを含むバルカン地方の人々も40度を超える強いお酒(ラキア)を毎日飲むのが日課になっていることが多いですが、彼らはロシア人のように「酒に飲まれる」人はかなり少ないです。セルビアの田舎では、朝のコーヒーと共に小さなグラス(50mlくらい)のラキアを「健康のため」に飲んだり、夕方以降、お隣さんや友人などとの「会話を楽しみながらラキアを嗜む」といったことが習慣になっていたりします。一方、ロシア人は多くの場合「つらい状況を忘れるために」強いウォッカを飲んでしまうため、依存症になりやすいのかもしれません。

セルビア人がこよなく愛するラキア

 

新鮮な肉、野菜や果物が安く買える

ロシアをはじめとして、ロシア語圏は基本寒いです。冬の間は特に野菜や果物は地元で育たないため、基本、温かい国や地方から輸送されてくるものを買うことになります。当然、鮮度は落ち、価格は高いということになります。モスクワは物価が高いことでも有名な都市ですが、そこからセルビアに移住してくるロシア人は、セルビアの生鮮食品の鮮度と安さに大喜びすることとなります。

また、セルビアは肉好きなだけあって、お肉の質もやはりロシアとは違う。ロシア人の姑がセルビアに遊びに来た時は、セルビアのお肉の柔らかさと美味しさに感激していました。「私が普段食べているのはゴムのような肉だわ」と。確かに、寒く厳しい環境で育つ牛や豚の肉はどうしても固くなってしまうのか、カザフスタンにいた時は肉料理は基本、煮込み系じゃないと硬くて食べれませんでした。

この写真はイメージです

 

セルビアはゆったりしていて過ごしやすい

モスクワの地下鉄の通勤ラッシュは、東京のそれと負けるに劣らず大変です。セルビアは首都のベオグラードでも人口は150万人程度と多くなく、人口密度もさほど高くありません。大都市ならではの混沌や忙しさに疲れ切ったロシア人は、セルビア人の急がないメンタリティもあってか、ゆったりと流れる時間にホッとするよう。

もちろんセルビア人も忙しくないわけではなく、子どもがいてフルタイムで働くお母さんの話などを聞くと大変だなとおもうこともよくあります。通勤ラッシュの頃の渋滞やバスの混み具合も楽とは言えません。

ただ、人ごみで道をまっすぐに歩けない東京や香港のようなメガロポリスの喧騒を経験すると、セルビア人は何だかやっぱりゆったりと生きていると思ってしまいます。おそらくモスクワなどの大都市から来たロシア人が感じる「ゆったり」はそういうことなんじゃないかと。

 

ベオグラード中心部の公園

 

セルビア人はお金にケチケチしていない。

セルビア人の不思議なところ。お金はないのですが、お金にケチケチしている人が少ない。この間話したあるロシア人も、「モスクワじゃスーパーの会計でお金が足りないことが分かって『足りない分、明日持ってきます』と言ったって誰も信じてくれないし、そのまま会計が通るわけがない。セルビアじゃ、店員のほうから『まあ、足りない分は明日持ってきてください』といって売ってくれるのよ!信じられる!?」と興奮気味に言っていました。

 

気候がいい

生まれつき寒い国に生まれたロシア人だからと言って寒いのが好きなわけではありません。かといって、タイやトルコなどは暑すぎて耐えられなかったりする。ロシア人にとっては、セルビアの気候は暑すぎず寒すぎず、雨の日も少なく、移住先の気候としては理想的といえそうです。年によっては夏の暑さが40度を毎日超えることがあるのが唯一の難点かもしれません。そしてそんなに暑くなるのに海がないこと。でも近くにギリシャやモンテネグロ、クロアチア、アルバニアの美しい海があるので、そこは目をつぶれるかも?

温暖な気候で緑豊かなセルビア

 

言語も文化も似ている

同じスラブ語系に属するロシア語とセルビア語は、発音やイントネーションはかなり違うものの、似ている単語も多く、文法も似ているため、ロシア人にとってはかなり習得しやすい言語です。大抵、ロシア人はセルビアに来て3~4カ月で基本的な会話ができるようになります。また、文化的な面でも、旧共産主義国だったり、大半の人は正教会を信仰していたりと、似ている面が多く、ロシア人にとっては馴染みやすいコミュニティと言えます。何と言っても、セルビア人はロシア人が大大大好きなので、そういう意味でも住み心地は良さそうです。

 

ロシア人から見たセルビアのダメなところ

美容室や修理などのサービスのレベルが悪い

セルビアのゆったりしたメンタリティが裏目に出るのがサービスの質です。美容室についていえば、きちんとトレーニングを受けた美容師が本当に少ないのが素人目線でも明らかです。知り合いの腕のいいロシア人の美容師さんのもとには、セルビアのサロンで困ったことになったロシア人がこぞってやって来ています。

美容室以外にも、家や車、パソコンの修理などが必要になったら、「必ず」知り合いのつてで、腕の良い修理士を紹介してもらわないといけません。そうしないと、ちゃんと修理してくれないか、最悪の場合、良い部品を取られて質の悪い部品に交換されているということもあり得ます。しかし、腕が良くて正直に働く修理屋さんはいつも忙しいので、すぐに来てもらえないこともあったりします。

ソーラーパネルの取り付けを事業にしている知り合いのロシア人は、セルビア人の労働者はクオリティを意識せず適当に働く人が多いので絶対に雇わないことにしているそうな…。

このように、セルビアのサービスレベルに関しては、多くのロシア人がもどかしさといら立ちを感じているようです。

 

仕事がない。特に外国人は。

ヨーロッパとはいえ、このバルカン半島の国々の経済状況は良いとは言えません。セルビアの失業率は20%以上、平均月収は250ユーロと言われています。仕事があったらあったで週6日勤務が普通だったりと、労働環境も良くなかったりします。このセルビアの失業率を少しでも改善する目的なのか、外国人よりセルビア人を優先して雇用し、必要とされている業務をこなせる人がセルビア人の中に見つからない場合には外国人を雇ってよい、というような決まりがあるようです。なので、よほどセルビアでニーズの高い専門的職を持っているのでない限り、外国から移住してきて、どこかの会社に職を見つけるということは期待できません

なので、ここに住むロシア人は大抵、会社を作る(個人事業主になる)か、フリーランスになるか、のどちらかの選択を迫られることになります。自分の会社を持てばそれを理由に長期滞在ビザももらえますが、フリーランスの場合に長期でセルビアに住むのは少し面倒くさくなります。3カ月に一度、国外をでて観光ビザを更新するか、不動産を買って不動産所有の長期滞在ビザを発行してもらうかのどちらかです。実際、フリーランスとして住み続けるのが大変になり、本国に帰ることにしたロシア人もいます。

 

暖房費、ガソリン、税金、輸入商品が高い

モスクワなどと比べれば家賃はぐっと安くなるものの、毎月出ていく光熱費、特に電気代や、ガソリン代はロシアと比べて割高です。ガソリンはロシアの二倍の価格ですし、冬場のセントラルヒーティングのために、冬場だけでなく夏場も、毎月50~100ユーロ(約6000~12000円。家の大きさによる)払わなくてはいけないのは、ロシア人には理解しがたいシステムといえます。

個人事業主の場合は、月の収入にかかわらず、最低9000円程度が税金と年金、健康保険料として出ていき(日本からしたら夢のような安さかもしれませんが…?)、さらに個人事業主は基本、会計士を雇わないといけないのでそれに毎月最低6000円程度。移住してきて、言葉もまだよくわからず、固定客もいないなかでこれだけの固定支出があるのは中々厳しいもの。

さらに、オンラインショッピングの大好きなロシア人にとって悩みの種は関税の高さ。50ユーロ以上の買い物では関税が20%以上かかるため、AliExpressでスマホなどの電子機器を買えば、かならず20%(酷いと30%くらいのときも)の関税が上乗せされてしまいます。ロシアやウクライナ、中国などから商品を仕入れてセルビアで売るというビジネスを展開したいロシア人にとっても、この関税はかなり厄介な存在のようです。

 

バルカンの食事に飽きる

肉、肉、肉…の食事に飽きるロシア人は実は結構います。ロシア人は魚も結構よく食べるし、寿司も大好きな国民。また、ロシア料理だけでなく、中華料理、韓国料理、中央アジアのエスニック料理、寿司、イタリア料理…など、結構いろんな食文化に興味を持ち、チャレンジ精神があります。

セルビア人は食に関しては、自国文化にかなりの自信と誇りをもつ人たち。そして、魚はあまり好きではなく、生魚を使った寿司はもってのほか。90%以上のセルビア人は寿司が嫌いだと思います。(私自身、「寿司が好きなんだ」というセルビア人に会ったことがまだありません)

そんな人たちなので、街中のレストランも、セルビア(バルカン)料理とピザ、パスタを中心としたイタリア料理が大半を占めます。寿司を含む日本料理屋やロシア料理、中華料理などを展開するレストランもありますが、かなり少数派で、セルビア料理レストランと比べるとどこも割高。

どこにでも寿司バーがあるモスクワとは違った、バルカンの食事情に飽きてくるロシア人は少なくないようです。とはいえ、ロシア人も基本は肉とジャガイモとパンが食の中心ではあるので、家にロシア料理が作れる奥さんがいれば十分かもしれません。

 

まとめ

以上の長所、短所を見てみて、「なぜロシア人はセルビアに移住してくるのか」を改めて考えると、やはり家族で住むことを考えた時の安全面や、言語の習得のしやすさ、文化への馴染みやすさ、気候などが大きなウェイトを占めているのではないかと思います。質の悪いサービスは知り合いのつてでロシア人か腕のいいセルビア人の修理屋さんを紹介してもらうとか、高いガソリン代、光熱費などは節約するとか、自分である程度コントロールできますし。あとは収入減となる仕事さえ何とかなれば…ですね。

ロシア人は移住先でもロシア人同士の交流があって、その中で仕事を見つけたりもできるので、セルビアでのロシア人コミュニティが大きくなってきている今、さらに今後増えていく可能性は高そうです。セルビア人はきっと大歓迎でしょう。日本人は少ないですが、日本人としても居心地がいいと相変わらず感じているので、興味のある方はぜひ。まずは旅行に来てみてください。ということで、Welcome to Serbia! Welcome to Belgrade!